物語はいつも不安定

SF小説が好きすぎて

2015-01-01から1年間の記事一覧

全て見たい現実

隣りで眠気と戦っていた皆川先輩は早々に敗北を認めて夢の世界へと旅立ってしまった。 噂には聞いていたが「量子物理学実論II」の破壊力は本物だ。 受講した学生全てを夢の国へ誘うその講義。 一部の生徒に「レクイエム」と名付けられた異名は伊達じゃない。…

初めての目標

年初に目標を立てたが何も達成できていない。 正月だといってはりきり過ぎてしまったようだ。 他人の目もある。 今年は特に周りからの期待が大きかった。 周りにきちんと宣言していなかったのは幸いなのだが、できませんでした、というのはどうにも具合が悪…

私に渡しに

第一幕 気づくと男は真っ暗な夜道を歩いている。 足元を見れば玉砂利の道。 月夜に照らされ美しく輝く。 どこへ向かうかわからないが、 急がなくてはならない。 道端に女がうずくまっている。 男 何者だ。 一の姫 しくしくしく。 男 これ、どうしたかこんな…

くじらみたいに

「ねえ、今年もね、流行語大賞の時期になったよ」 「そっか。もうそんな時期なんだ。どんなのがあるの?」 「今年はねえ、私これ好きだな。くじらみたいに、だって」 「何それ。どんなとき使うの?」 「わからないよ。今私が適当に考えたから。流行語なんだ…

紅葉を眺むれば

なにもかもがどうでもよくなって夜の新宿をひた歩いてたら怖そうなお兄さんとか酔っ払ったおじさんが話しかけてきたからちょっとずつ明かりの少ない方へずんずん歩いてわんわん泣いた。 でももう泣きすぎて歩き疲れて深夜を回って家に帰れなくなって自分がど…

中華鍋奇譚

私の一番古い記憶は、まだ小学校に上がる前の運動会。私はお母さんの作った豪勢なお弁当がおいしすぎて踊り狂っていた。おかずはひとつひとつ丁寧に作りこまれた宝石みたいで、幼児の舌にとってもそれは感動だった。 私はそのときしげしげと、かきたまあんに…

開けてはいけない玉手箱の話、あるいは浦島太郎の結末が奇妙である本当の理由

”こうしてうらしまはたくさんのおみやげを持ってなつかしい浜辺へ帰ってきました。うらしまはもらったおみやげをつかってしぬまでしあわせにくらしましたとさ。めでたしめでたし” 「これでいいかい?ウミガメさんよ」 「へえ!すばらしい出来で!さすがウラ…

ハッピー・タイム・トラベル

「過去は変えられると思う」 教授は人一倍付き合いが悪いですし、いつも研究室にこもってばかりでしたから、陰でマッド・サイエンティストだと噂されていました。 でも私は学部生の頃から教授の助手を務めてきましたからわかっています。教授はマッド・サイ…

君と私のエレクトリカル・パレード

タケシの持つたった一つの欠点は致命的だった。 彼のスイングは素人の私が見ても惚れ惚れするし、腕力は同世代より頭ひとつ飛びぬけてる。彼がバットを振ると木から葉っぱが散って鳥の群れが逃げ出したから、私は目をつむってスカートを抑えて風が鳴り止むの…

恋は自動応答

3年付き合った年下の彼女にうんこのようにフラれたのが15時間前のことである。 必死で食い下がる僕を見る目は道端にあるうんこを見る目と大差なく、自分が本当にうんこではないかと怪しくなったから10分に1回くらいは自分がうんこでないかどうか確かめた。 …

書かれた世界

もしあの本に出会っていなかったら、と思うと今でもそわそわする。 こんな文章を書くこともなかったし、自分に疑問を抱くこともなかったに違いない。 本から受ける影響がいいものばかりなんて嘘っぱちだ。いずれにせよ僕は見つけてしまったのだし遅かれ早か…

渡したものと受けとったもの

先生はいつもあたしにだけ厳しかった。 他のみんなが外で遊び始めてもあたしだけはいっつも居残り。 あたしだけ何か怒られるようなことをしたっけ?あたしはそんなに落ちこぼれだったかな? そんなことないと思う。あたしは誰よりも早く字をかけたし、みんな…

写真名人伝

群馬の山の端に住む木庄という学生が、天下第一の写真の名人になろうと志を立てた。天下で何事か成し遂げるため重要な才覚はひとえに情熱と時間である。雨垂れでも同じ場所に着地し続ければ岩をも穿つ。 その点木庄はまだ15にならない若輩者で時間については…

長くて古くて大きな約束

あいつの手には水かきがあった。 俺らはいつも木の実だとか虫だとかを捕まえて食べる。だからどうしたって手の違いには敏感だ。あいつの手がヒダヒダのせいで大きく開かねえのを、仲間の連中はことあるごとにバカにしたもんだ。 「おい、指をもうちっと広げ…

バベルの司書

古い本棚だ。百科事典みたいに重厚な背表紙がずらっと並んでいる。膝までの手すりが飴色に光っていて、その先は大きな吹き抜けだ。六角形の部屋。そのうち4面が大きな本棚になっていて、その前に僕は立っていた。 おかしなことに気づく。 背表紙に金色で印…

夏野菜カレーセットください

僕は忘れていた。 皆川5段はその自由な指し筋でここまで上り詰めた、天才女流棋士だったことを。 前兆はあった。 タイトル戦ともなると対局中の食事も超一流である。前日までに食べたいものをリクエストすれば、ブラックサンダーから北京ダックまで準備して…

シモニデスの宮殿

真夏の一夜に華を添える、強烈な思い出になればいいと思っていた。いつまでも僕ら三人が覚えていられるような、そんな思い出にするはずだった。 それで僕はあの廃墟の話をした。 「ねえ、ここ見つけたのだいぶ前なんでしょ?よく道覚えてるよね」 「俺の記憶…

いつまでも南の島で

きれいなペンションだった。 「うおー!何これ!すごいリアルだねー!」 隣で真理が歓声をあげた。本当だ。すごいリアルだ。しゃがんで砂を握ると一粒一粒がさらさらと崩れた。本物みたいだ。湿った塩の香りと波の音で海までの距離がわかる。 「早く入ろうよ…

裸に見える王様

「王様は裸だ!」 と叫ぶ声が聞こえました。 でも、王様はきちんと服を着ていたのです。ただ、見えなかったのです。 むかしむかし、あるところに、服を着るのが大好きな王様が住んでいました。 王様は贅沢なご飯や勇ましい戦争には興味がありませんでした。…

夏が来るからあいつも来るから

えー、最近ではやれ扇風機だァ、クーラーだァ、おてんと様の下は暑くってかなわねェのに、ひとたびおうちんなか入りましたらばァ秋をすッとばして冬が来たかッてェくらい冷えております。 しかしまァ昔の家には電気なんて上等なものはありゃしませんな。そん…

今日も研究所の外は虹

できた。 シミュレーションの再開を操作すると上空から小さい水の粒がたくさん、数え切れ無いほどたくさんの水の粒が大地に降り注いだ。ちょっとやり過ぎたかもしれない。 細かい水の粒は大地に落ちて合流し、次第に大きさを増した。もう水の粒ではない。一…

グアテマラ・ラプソディー

「次はー…ラー、…テマラでー、ございます。」 足音で目が覚めた。 見ると車両から降りる人々で出口に列ができ、僕と皆川さんはそれをおだやかに見つめていた。降りなければいけないのだろうか?しかしこの電車は山手線だし、池袋に着くにはまだ早い。睡眠不…

世界を変えるブログ記事

"はじめまして。突然こんな手紙を渡してしまってごめんなさい。私は都内の高校に通う二年生で、---と言います。チアリーディング部で部長をしています。 いつもあなたと同じ東成線に乗っていたんですが、あのときのこと、覚えていますか?朝からすごく暑い日…

雨の日には図書館へ

雨の日に図書館なんていくもんじゃない。と35度目の後悔をしながら階段を上った。 休日に何の予定もない日は、といってもたいてい無いのだけれど、図書館へ行く。家の近くにある図書館は2フロアしかなくて、子供の読み聞かせに一番大きな部屋が使われている…

ごんぞうだってアツくなるんだから

私の名前はアンジェリカ・ごんぞう。 こう見えてもびっしゃびしゃの47歳!実はフランス人と日本人のハーフなんだ!梨花は!でも私は特に梨花じゃないし特に周りから見ても女子高生には見えないもっさいおっさんなんだよ! おっさんだって!生きているんだよ…