物語はいつも不安定

SF小説が好きすぎて

初めての目標

 年初に目標を立てたが何も達成できていない。

 

 

 正月だといってはりきり過ぎてしまったようだ。

 

 

 

 他人の目もある。

 

 今年は特に周りからの期待が大きかった。

 

 周りにきちんと宣言していなかったのは幸いなのだが、できませんでした、というのはどうにも具合が悪い。

 

 

 自分の成長を過信し過ぎたというのもある。

 

 伸び盛りだと言われて調子に乗ったし、周りの意見にも流された。

 豚もおだてりゃなんとやら、とはよくいうが、出来ないことは出来ないものだ。

 

 

 ついつい言い訳ばかりが口を突くが、この間、家中の者がおせちの話をしていたのを聞いてまだ時間があるなと思い、年初に立てた目標を今一度ひっぱり出してみる。

 

 

・・・

 

 

 と、思ったがどこに置いたかも忘れてしまった。

 

 

 

 情けない。

 物覚えも悪い。

 

 

 書いた当時は適当で、特に覚えておかねばと思っていなかった、というのも言い訳だ。

 自分の甘さに辟易する。

 

 

 去年はそれでもよかったのだ。

 

 

 特にしなければならぬことは何もなく、暖かい水の中にぷかりぷかりと浮いておればよかった。

 

 

 話を戻そう。

 

 目標の話だ。

 

 このように私が目標を立てたのも、世話をしてくれる女性の期待に応えたいと思ったからである。

 

 みきちゃん、と呼ばれているその愛想の良い女性は私を猫可愛がりしてくれた。

 

 

 明らかに他の女性より一段と若く美しい。よくもまあこんな器量良しの女性とお近づきになれたものだ、と誇らしくなる。

 

 読者諸君においては身内の贔屓目かと言われるかもしれないが事実だから仕方がない。

 

 

 それから、ひさくん、と呼ばれている男性だ。

 

 彼はいつも忙しいらしく朝も早い時間からいなくなるが、私のことは気にかかるらしい。

  たまに休みのある日は一日中私といっしょにいてくれる。

 

 

 力が強いから、私も彼と遊ぶのは好きだ。みきちゃんにはできない芸当を軽々とやってのける。

 ひとつ気にくわないのはみきちゃんとやけに仲がいいことくらいか。私の気持ちを知ってかしらずか。いずれにせよ無粋に過ぎる。

  

 

 二人は私のちょっとしたことを手ばなしで褒めてくれるものだから、もう少し喜ばせたいと思うのが人情というもの。

 

 

 二人の親切に甘えてばかりでいるわけにもいかない。二人の期待に応えたかった。

 

 

 よし、まずは目標を書いた紙を探そう。

 あれは、たしか夏の暑い日だったか、外へ出るのも億劫で、散らかし書きをした紙を「ひさくん」が律儀にとっていたはずだ。

 

 

 それにしてもあれだけ暑い夏がまたこんなにも寒くなるのだから不思議なものだ。

 

 もう二度とあの寒さは戻ってこないものだろうと思っていた。

 季節はめぐる。

 これも最近知ったことだ。

 

 

 さて、たしかこの辺に…と探していたそのとき、みきちゃんの大きい声が響いた。

 

 

 「わあー!ひさくん!来て!早く来て!ほら!」

 

 

 なんだ騒がしい。

 

 

 「立ってる!」

 

 

 そう言われて気づいたが、私は初めて自分の足で立っていた。

   立つときに何かに捕まっていたような気もするが今は何も持ってない。

 

 

 「わあー!本当だ!やったねえ!」

 

 

 「一歳の誕生日で立つなんて、すごいねえ!」

 

 

 そうだ、思い出した。

 

 私の今年の目標は

 

 

 「立つこと」

 

 

 見ると小さな小さなケーキが用意されていた。前にちょっとだけなめたのを覚えている。とても甘くておいしいやつだ。

 

 

 明かりが少し暗くなって、二人が隣へやってきて、初めて聞くフレーズが耳に届く。

 

 

 「ハッピバースデイ・トゥーユー♪」

 

 

 

 

「ハッピバースデイ・トゥーユー♪ 一歳の君へ♪」

 

 

 

 生まれてきたことを体いっぱい、精いっぱい喜んでくれてる、そのフレーズ。

 

 

 それが私の心をいっぱいに満たした。

 

 

   これからどんな日々が待っているんだろう。

 

 

 

 私の心に響きわたる不思議なあたたかな気持ち。

 

 

 

 生まれてきて、おめでとう。

 

今週のお題「年内にやっておきたいこと」

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