物語はいつも不安定

SF小説が好きすぎて

オーロラが美しい理由と2月14日の関係

「いや、そもそも。

 

 

本来地球にはものすごい量の宇宙線が降り注いでいて、それはきっと地球上の生物の持つ遺伝子を片っ端から壊していたはずなんだよ。

 

 

想像してみて。太陽から降り注ぐ放射線の量なんて、原子力発電所の比じゃないし、知ってる?宇宙飛行士を選ぶときには体に悪性新生物、つまり癌の兆候がないか、徹底的に調べられるのもそれが理由。

 

 

それは親や親戚にも調査が及ぶし、癌が出やすいかどうか遺伝するからなんだ。

 

 

なにしろ大気圏の外に出ると普段とは段違いの放射線を浴びる。

 

 

宇宙飛行士は宇宙に行った後のことをあんまり考えていない人も多いみたいだけれども。

 

宇宙に行ったせいで癌です。なんてなったら送った方も辛い。

 

 

もちろん、癌になりやすさ、というか、遺伝子の修復する強さ、ってのは人によってぜんぜん違うから、とりあえず、強い放射線を浴びても大丈夫そうな人を選ぶしかない。

 

 

今よりもっと原始的にしか放射線や癌のことがわかっていないときですらそうだった。

 

だからそのとき月へ行こうとしていた人類は本当にいろんな心配をしてたらしい。例えばね。

 

 

旧ソ連では初めてガガーリンを飛ばすとき、無重力になったら人は気絶すると心配してて。だからセルゲイ・コロリョフが魂込めて作ったボストークには自動離脱装置がついてたりしたんだよ。

 

 

話を戻そう。

 

 

その頃人間はやっと地球の周回軌道上に人間を浮かせることができるようになっていた。

 

 

国家の威信を賭けて宇宙開発競争に精を出したアメリカとソビエト。その頃の宇宙飛行士の選定なんてひどいものだったけど、たくさん候補者はいたから気にならなかった。

 

 

そういえばガガーリンはその後訓練中の事故で亡くなった。人類史に残る英雄なのに。

 

 

とにかく、お互い産業スパイのおかげもあって、技術情報を盗み出していたソビエトとアメリカは互い月への旅が目前に迫っていたんだ。

 

 

実はアポロ11号は本当は月へ降り立つつもりじゃなくて、本当はアポロ12号だったんだよ。だけどソビエトに勝ちたい一心で、ひとつ前倒しになった。アームストロングはそれを聞いて本当に嬉しかった。

 

 

ケネディ大統領が1960年代の内に月に人を送るっていっちゃったから、そのタイムリミットも迫っていた。国家予算の3分の1も使って。膨大な人員が投入されて。

 

 

そこに悪いニュース。

 

 

それは1958年に見つかった。そう。放射線だ。

 

 

地球は巨大な鉄の玉で、その巨大な鉄の玉が、ものすごい勢いでぐるぐる回っている。そのせいで地球全体が巨大なコイルとなってものすごい磁場が発生する。 

 

 

その磁場に宇宙から降り注ぐ陽子と電子がひっかかって、巨大な渦になってるんだ。ええと、つまり、明石の大渦潮にひっかかった鯛とタコが、あ、余計わかりづらいよね、ごめんね。

 

で、ひっかかった陽子と電子はそこを通過する人体に悪影響があって、人間は地球から外に出られないんじゃないかって本気で考えていたんだよ。

 

 

フタを開けてみれば宇宙船と防護服でガードできるし、いらぬ心配だったんだけど、月着陸がウソだったと思ってる人は大真面目にこれが原因だって未だに言ってるし、本当にこんな帯があるのもまた事実なんだ。

 

そんな帯なんて知らない人の方が多いしさ、日常生活には本当に影響のない話なんだよ。だけどね。

 

 

この帯に含まれる粒子が地球の空気と衝突すると、飛び出た波長がすごくキレイに映ることがある。ほら見てこんな風に。

 

 

オーロラ。

 

 

 

で、その放射線の多量に含まれる帯のことを、その発見者の名前をとってこう名付けたんだ。

 

 

 

 

 

 バレンタイン、あっ間違えた。ヴァン・アレン帯」

 

 

そんな彼の回りくどい話を聞きながら、私は目の前の圧倒的な光のシャワーに目を奪われていた。

 

 

「ねえ、あのね、わざわざ私を2月14日に合わせてノルウェーまで連れて来てくれて、本当にオーロラはきれいだし嬉しいんだけど」

 

 

 

「チョコレート欲しいなら普通にそういって」

 

 

 

「はい、これ手作り」

今週のお題「バレンタインデー」

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