物語はいつも不安定

SF小説が好きすぎて

試験だからって勉強なんてしたくない

カンニングをしよう、と心に決めました。

 

こんな広すぎるテスト範囲、まともにやる方がおかしいわ。

 

 

テストが終われば全く使わなくなる知識を溜め込んで、そんなことに私の大事な脳みそは使われたくないし、そうよ、私の大脳新皮質はもっと大事なことのために使われるべきだと思うわ。

 

こんな、二次方程式の解の公式だとか、古文単語だとか、ヒンドゥー教の最古の国名とかは知りたい人が覚えればいいのです。

 

私は早速友達に相談しました。

 

あーたんは昔から私の友達で、すっごく頭が良くって、偏差値80くらいだったと思うのだけれど、私の怒りの雄叫びを聞いて、

 

そうよね、本当にそう。うん、私もそう思う!鉄槌ね!社会への鉄槌なのね!ああ!そういうの好き!やろうよ!

 

とかなんとか言ってくれて協力してくれることになりました。

 

というより私よりもテンションが上がってやる気になってしまったから、

 

そうか、人間やっぱり紙の試験結果じゃないんだな、なんて失礼なことを思いながら私たちは来たる期末試験で本気でカンニングをするのにそれはもうバッチリとなりました。

 

 

あーたんは次の日には「素案」と書かれたプレゼンテーションを作って私に見せてくれたのだけれど、色とりどりの図やグラフを散りばめたスライドを次々と見せてくれる彼女は少し目の下にクマができているし、やっぱりアホなんだな、なんて失礼なことを思いながら私とたまたまその時教室にいたしおりで作戦会議をしました。

 

 

"カンニングには美学が求められる"

 

 

あーたんのプレゼンテーションに私たちは頷きます。

 

 

単語帳を小さな紙に写しておいてそれを試験中に見るだなんて言語道断。

 

そんなことをしてしまっては先生方のお考え通り、カンニングの準備中にそれが頭に入ってしまうなんてお粗末な結果になりかねません。それではダメですダメなのです。

 

 

頭は真っ白、解答用紙は真っ黒。それが理想です。

 

「問題を事前に手に入れるのはどうですか?」

 

しおり(偏差値40)が手をあげましたが、あーたん(偏差値85)は即座に却下します。

 

それでは事前に問題実際に解くことになってしまいますし、その過程で頭が良くなってしまうかもしれませんよね?それに、試験までどうやって回答を覚えておきますか?しおりさん覚えられますか?

 

 

完璧な論理の前にしおりは秒で打ち砕かれました。

 

じゃあ、一体どうすればいいの?

 

私たちは袋小路です。

 

簡単なことよ。

 

あーたんは小さめの胸を張って言いました。

 

 

先生の脳をトレースすればいいの。

 

あーたんは先生を事前に薬で眠らせて拉致、脳内の神経細胞を全てスキャン、その脳内パルスを模した電極を私たち全員が脊髄に装着すれば先生と同じ動作を再現できる、と説明してくれました。

 

 

なるほど確かに。

 

 

 

私たちはバカだけど、行動力は一流。つまり天才。

 

 

 

ターゲットは学年主任のヒゲモジャーに決めました。

 

ヒゲは普段からまあまあわかりやすいしそんなに嫌われてないし、っていうかプーさんみたいでかわいいとか言われがちな先生だけど、多分全教科解けるのが確実なのはやつなのです。やつなんて言ってごめんね。ヒゲ。

 

 

仕掛け人はしおり(自称Dカップ、でも多分ホントはEカップ)が金曜日の放課後にヒゲに質問をしに行きます。

 

怒涛の連続質問で他の先生が全部帰っちゃうまで粘ってそのタイミングで飲み物を用意、仕込んだ薬で昏倒したヒゲを私が車で運んで(お母さんのを借りよう)ヒゲの家であーたんが脳を解析することになりました。

 

これはすごい計画!

 

 

その日から私たちはそれぞれ自分の役割を完璧に果たせるように全ての時間を使い果たしたと思います。

 

 

私は休みの深夜から次の日の朝まで勝手にお母さんの車を借りて運転しましたし、(バレないかヒヤヒヤしました)しおりは自然な振る舞いで質問を5時間は続けられるよう練習しました。

 

一番大変なのはあーたんで、何せ理論は完璧でも実践には困難が付きまとうものですから、私たちまでシナプスだのニューロンだの、神経伝達物質だとかに詳しくなっていきました。フェニトイン、フェノバルビタールベンゾジアゼピン。両側性同期性徐波、ミオクロニー発作、エトセトラ、エトセトラ、エトセトラ。

 

 

「ねえ、開頭は、ダメだよね」

 

 

あーたんが聞いてきます。

 

 

「うん、開頭はダメだよ。血はしおりが嫌がるし、エレガントじゃない」

 

「だよね……じゃあ髪は?髪はそっていい?」

 

「うーん、ヒゲならいいんじゃない?」

 

「それはヒゲ先生なら髪をそってもいいってこと?それともヒゲ先生のヒゲならそっていいってこと?」

 

「どっちも大丈夫」

 

あーたんは納得してくれて、結局髪とヒゲ両方をそることにしました。

 

当日、しおりが質問の練習しすぎてだいたい教科書の範囲を理解してしまったというハプニングはありましたが、概ねうまくいきました。

 

シミュレーションも何度もしましたし、まるで運が私たちに味方してくれたみたい。

 

明け方、私としおりはもう疲れて机に突っ伏していましたけれど、あーたんが呻き声を上げて、目が覚めました。

 

「何これ……」

 

見ると、あーたんが大学から借りてきたというでかい端末に、ヒゲのキャラクターが大写しになっていました。キーは全く効かなくなっていて、入力できません。

 

 

「多分、これはヒゲなりのセキュリティシステム。もしかするとヒゲはこうなることを予想して……」

 

 

あーたんが唇を噛みました。

 

「突破できないの?」

 

「これ以上は脳を破壊しちゃう。それをやっちゃったらヒゲは……」

 

「ヒゲもまさかそこまでやるとは思ってないよね」

 

私たちはヒゲを見下ろして考えました。

 

 

 

 

ヒゲか、

 

それとも試験か……

 

 

しおりが隣りでもぞもぞ動きました。

 

 

週が明けて試験当日、私たちは、元気に動き回るハゲのヒゲを見ることができました。

 

 

じゃあ試験は0点だったか?というと、そんなことはありません。

 

 

結局あーたんの脳をトレースすれば全教科余裕で100点だったからです。

 

 

しおりは質問の練習を通してすごく勉強ができるようになったし、私は満点が並ぶ試験結果を見ながら考えました。

 

 

「普通に勉強すればよかったかも」

 

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今週のお題「テスト」