物語はいつも不安定

SF小説が好きすぎて

ベテルギウスの爆発と私の妄想の爆発

11月が終わって街にクリスマスムードが広がっていく頃、それは観測された。

 

 

「ねえ、ニュース見た?」

 

 

「なんの?」

 

 

「なんかね、星が爆発するんだって」

 

 

「なにそれヤバい!ヤバいの?笑」

 

 

「え、あんたホントにわかってる?ニュース見てないの?」

 

 

「見てない。見たほうがいい?」

 

 

「え、マジか。なんかね…」

 

 

小学校のときから友達長すぎて腐れ縁のトキコによれば、オリオン座の右肩。ベテルギウスと呼ばれる星が暗くなってるんだって。写真で見たけど、少し明るい街だとほとんど消えて見えた。

 

 

他の星はちゃんと見えたからそれは夜空のせいじゃなくて、ベテルギウスだけ何かあったっぽい。

 

 

ベテルギウスは、確かめっちゃ明るい星だ(私は地学選択なのだ)

 

 

「爆発して無くなっちゃったのかな」

 

 

「違うから。ってかニュース見ろし」

 

 

というわけでyoutubeで見せられた動画はけっこう本気ですごかった。

 

 

「…というわけで今暗くなっているベテルギウスは超新星爆発の前触れとも言われており、今後数ヶ月、または数日以内に爆発する危険性があります。地球から640光年と比較的近い距離にあるこの星の爆発が地球に及ぼす影響は歴史上観測された記録はなく、大量のガンマ線がかつてないほどの…」

 

 

「640光年だって。遠くない?」

 

 

「いやめちゃめちゃ遠いでしょ」

 

 

「でもヤバいんだ」

 

 

「うん、なんか強いレーザーみたいなのがあたるとヤバいっぽい」

 

 

「えー、地球無くなっちゃうのかなー、テストどこの騒ぎじゃなくない!?やんなきゃいいのにテスト!」

 

 

「いやーまあそうは甘くないわけよあーた」

 

 

こんな会話をしてたくらいに、私たちは朗らかでテキトーで毎日幸せだったんだと思う。

 

 

呑気で脳天気なJKの毎日。

 

 

でも事態は刻々と趣を変え、ちゃんとしてる世界はけっこう本気で騒ぎ始めた。

 

 

「…このように、政府の発表によれば1859年に観測された太陽フレアを超える電磁パルスが地球へ届くとされ、少なくとも地球の磁場の乱れは通信ケーブル、放送、携帯電話、変圧器の故障による電力供給の途絶は避けられないとしています。インフラ復旧の目処は地域差があり…」

 

 

発表する政府高官の顔ぶれは毎度変わってたし、街ではいろんな宗教がスピーカー片手に怒鳴りまくってるしそれに集まる人もたくさんいて、なんか怖い。

 

 

少しずつ不安を浴びてきたように思う。うちのお父さん会社辞めてラーメン作りたい、とか言い出したし。ホントそういうのやめて。

 

 

でも、正直地球が滅亡するかどうかよりは明日学校があるかどうかの方が気になったし、次の中間の範囲がわりと気がかりだったし、何しろ私には、

 

 

 

 

まあ恋するかっちょいい男の子がいたわけで。

 

 

クリスマスソングに混じって地球崩壊を叫ぶのは、なんかこう、ロマンチックに見えてしまったのだ。だってJKなんだからしかたないじゃない。ねえ!

 

 

星より先にね、私の妄想が爆発するんですよ!っていったらトキコ爆笑してた。

 

 

 

笑い事ではないのだ!

 

 

 

地球が破滅するときに、私の隣りに彼がいない!恋の一つも成就せず、あっという間にあの世行き!来世で会える保証なんてない!来世無いかもしれないし?

 

 

世界が浮足立ってきて私の心もなんだかそわそわしだした。

 

 

もしかして 

 

 

このタイミングなんじゃないか   ってね!!

 

 

地球最後のタイミングに「世界ももう終わりだね。。」とかいって人類最後の愛の接吻を交わすのだ、彼と。

 

 

私は好きな人を内輪で好きだーとかいってきゃーきゃー言うのが楽しいタイプだったんだけど今回は違う。

 

 

私の成長か地球の滅亡のせいか、どこを探しても見つからなかった勇気が、今私の心のなかに暖かい。

 

 

ますます光が小さくなっていくベテルギウスが私を急かすんだ。

 

 

・・・

 

 

二学期の終業式が終わって彼が教室に残った日を見計らって(トキコを外に追い出して)私は話しかけた。

 

 

「ねえ、地球って滅亡すると思う?」

 

 

「えー?」

 

 

彼と初めてしゃべれた。 

 

 

「どうなんだろ。◯◯はどう思う?」

 

 

「わかんない。ちょっと楽しみだけど」

 

 

「楽しみなのかよ笑」

 

 

彼がちょっと笑った。ヤバい。私の中に住むお笑い芸人はウケるとすぐ調子に乗る。

 

 

「だってさ、うちのお父さんなんか会社辞めてラーメン屋やるとか言ってるんだよ!これで地球崩壊しなかったらラーメン屋の娘だよ!いや、ラーメン好きだけどさ」

 

 

「そうなんだ。ラーメンめっちゃいいじゃん。今度食い行くよ」

 

 

マジか。うちのお父さん今すぐ会社辞めろ。私が麺打つ。

 

 

「え、マジか。じゃあすぐラーメン屋やる!絶対食べに来て!」

 

 

ちょっと押し過ぎだったかな。引かれたらどうしよう。

 

 

「何だよそれ笑」

 

 

ちくしょう。困って笑う顔がくっっそかっこいいのがズルいな。

 

 

そのとき、ちょっと教室の外に目をやるとトキコがすっげー笑いながらこっちを見てた。それでなんか突然めちゃくちゃ恥ずかしくなってしまって。

 

 

なんだよー!もー!

 

 

私が慌てて教室を出てトキコのいるところへ行こうとするとあいつが声をかけてきた。

 

 

 

「なあ!ラーメン屋始めたらすぐ教えろよ!」

 

 

「わかった!」

 

 

顔も見れずに返事だけやけに声のでかいJKは教室からむんずと出て行く。

 

 

トキコの口がなんか動いてる。

 

 

"ライン!"

 

 

うおー!間違いねえー!

 

 

私はむんずと教室に戻りまたやけにでかい声であいつに話しかけた。

 

 

「あ!ねえ!ラーメン屋始めたら教えるからさ、ラインやってるよね!?」

 

 

「やってる」

 

 

「教えてよ」

 

 

「いいよ」

 

 

うわー!なにこれー!

 

 

私はベテルギウスに感謝の祈りを捧げて、まだラーメン屋を始めてないお父さんに呪詛を捧げてレンラクサキ交換をしたのであった。

 

 

ひたすら嬉しかった。本当に嬉しかったよ。

 

 

そして私のめくるめく、楽しい距離図りつつ控えめなアピールで存在感を醸し出す作戦が始まった

 

 

 

 

はずだった。

 

 

私は彼に送るメッセージを何度も何度も書いては消し、スタンプの一つも送れなかったのである。

 

なんという乙女!

 

 

トキコが勝手に送ろうとすると体操で鍛えた腕力で全力で奪い返してしまう。あいつもあいつで、連絡先交換したんだから何か送ってくれたっていいじゃない!恥ずかしがり屋か!あたしか!

 

 

悶々とした気持ちは640光年の空間を隔てて届いたのかも。

 

 

ベテルギウスの活動は宴もたけなわみたいだ。

 

 

「ベテルギウスの輝度がついに6等星を超えました。これは恒星内の核燃料が燃え尽きたことを示します。ベテルギウスは最後の呼吸を終えようとしているのです!」

 

 

youtubeはベテルギウスの最新速報で埋まっていったからあたしたちはそれを見ながら星を見上げた。

 

 

右肩の欠けたオリオン座。

 

 

あいつの欠けた私。

 

 

大晦日の深夜、私はトキコと待ち合わせをして受験のお参りをしよう!っていって真夜中に初詣に出かけた。地球が終わるかもしれないのに受験だなんて、なんてブラックジョークなんだろう。LINEにはいまだに下書きだけ抱えたまま。

 

 

家の近くの神社はそれでも少し人がいて、地球最後の神頼みをする人が、ごよごようごめいていた。

 

 

そのとき私はあの背格好を見つけてしまったのだ。

 

 

敏感に感知したトキコはめっちゃ笑って私をあいつに押し出す。

 

 

ご丁寧にあいつの名前も呼んで。

 

 

「おーい!◯◯じゃん!」

 

 

そして人混みに消えていった。やりやがるな!

 

 

あの放課後以来、いったい何をしゃべるのだ。

 

 

私はLINEの画面を開いたままスマホを握りしめてあいつの前で今年最高のもじもじを繰り広げた。

 

 

「初詣来てたんだ?」

 

 

「うん、まあ」

 

 

あーもうダメだ!なんかもうダメだ!やだ!きっつい!

 

 

そしてそのとき、

 

 

夜空が突然昼間になったかのような光が埋め尽くした。

 

 

一瞬何のいたずらかと思った。

 

 

あたりは突然真昼のように明るくなり、それは厳かで音もなく、ただ、ひたすら柔らかだった。

 

 

深夜24:00の東京桟橋大明神宮はスポットライトに照らされたステージのように光り輝く。

 

 

呆然として夜空を、いや、夜空だった眩しい空を見上げる私たち。

 

 

熱線や吐き気は何もなく、ただただ私たちを、照らす。とても静かに。

 

 

…リン★

 

 

そして、私のスマホがメッセージの着信を知らせる。

 

 

スマホを見下ろす私たち。見ると、あいつからのメッセージと、私からのメッセージ。私の下書きメッセージが勝手に送信されてた。

 

 

"なんかメッセージ送れなくてごめんね!もう年末だねー初詣とか行くの?"

 

 

同じタイミングで彼からのメッセージ。

 

 

"えーと、なんかメッセ送れなかったんだけどまた話したいと思っててさ。そーいやラーメン屋まだかな?中間勉強してる?よかったら初詣一緒に行かない?"

 

 

 

大山鳴動して鼠一匹。

 

 

 

ベテルギウス爆発してLINE2通。

 

 

 

私たちはお互いの顔をみてちょっと笑った。

 

今週のお題「年末年始の風景」

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