物語はいつも不安定

SF小説が好きすぎて

ごんぞうだってアツくなるんだから

私の名前はアンジェリカ・ごんぞう。

 

こう見えてもびっしゃびしゃの47歳!実はフランス人と日本人のハーフなんだ!梨花は!でも私は特に梨花じゃないし特に周りから見ても女子高生には見えないもっさいおっさんなんだよ!

 

おっさんだって!生きているんだよ!

 

でもね、実はおっさんことごんぞうはちょっと今困ってる。今ちょっとって言ったけどホントはだいぶ困ってるの。

 

おっさんことごんぞうは働いている日もあるけど働いていない日も多い。だからこんな風に朝から昼までペペロンチーノをおいしく炒めてることだって少なくない。お金を使いたくないごんぞうはペペロンチーノが大好き。だって安いから。この歳になるとかかったお金が味に影響してるんだ。知ってた?

 

 

だから今日もルンルン気分で前に買ったお徳用1kg298円のパスタをたっぷりのお湯にぶちこんだの。暑いから窓を開け放して、5月の空気は頬に優しくて、カーテンは少しだけ風に甘えてた。

 

47歳のおっさんだって食べずには生きていけない。そんなこともわからない人が世の中には多すぎるんだけど、おっさんだってペペロンチーノは食べる。ペペロンチーノがおっさんに食べられたいかどうかなんて、どうやったらわかる?

 

そしてごんぞうという名のパスタの奴隷がゆであがったパスタを器に移そうとしたときに悲劇は起こったんだ。ごんぞう、いつもならたった一個だけ持ってるプラスチックのざるにめがけてざざーってお湯を開けるの。そしてべこんって鳴る幸せで生きてる。だけどどうしても今日はそのプラスチックのざるが見つからなかったんだ。

 

ざるがないんだって!?もうごんぞうの頭の中はちょーテンパ!おいおいごんぞうはテンパじゃなくてハゲだろーっ!とかって言わないで笑 今はあたしの頭の中の状況の話をしている。で、ざるがなかったらこのパスタの茹で汁は行き場をなくした迷える子羊。ごんぞうと同じじゃない?苦笑

 

でもだからといって流しに茹で汁を捨てるのは怖い。だってパスタ一本無駄にしたら小麦粉の神様と食欲の神様に怒られるって、デュラム小麦のセモリナ様が口すっぱく言ってたの覚えてるでしょ?覚えてない。そうだよね。誰だろセモリナ様って。

 

でもじゃあ仕方がないから一度沸き立つ熱湯のたっぷり入った寸胴鍋を一回置こ?ね、ごんぞう一回置こ?って脳内ごんぞうに言われたんだけどそしたらパスタ入れてたビニール袋がコンロのとこに風で舞ってるわけ。

 

今季一番びっくりしたという意味ではサプライズオブザイヤー笑!でもやばいじゃんやばいじゃん、このまま寸胴鍋を置いたらビニール袋が溶けちゃうじゃん、寸胴鍋にくっついちゃうじゃんってごんぞう不安が脳内にほとばしるのが超わかった!で、こうしてる間にもパスタはどんどんゆであがってやわらかでろんでろんのびろんびろんのぽーいになっちゃう!って思ったときにピンポンが鳴ったのね。

 

電撃のように思い出した。思い出しごんぞう。アマゾンで衝動買いした少しだけ破廉恥的なサムシング。サムシングハレンチ。で、あるからしてこのときに受け取っておかなくちゃまずいじゃないってなった。見たいし!ごんぞう超見たいし!だからごんぞうは精一杯叫んだ。「私ごんぞう、ここにいます!私、受け取ります!」ってね。

 

だけどよく考えたらごんぞうのうちは4階でアマゾンの人は1階。ちょっと聞こえないよね。だからまずごんぞうインターフォンを使ってごんぞう解錠ボタンをごんぞうエクストリームプッシュしなきゃいけなかったってわけ。いくらごんぞうだってハゲてるけど普段ならボタンくらいは押せる。シャンプーだってできる。でも今は両手がごんぞう寸胴鍋でごんぞう手一杯してるから残るは、、、えっ????まさかの??あれ???笑笑笑

 

 

ごんぞうヘッドじゃない?

 

ごんぞうの頭は普段使わないからこういうときにすごく役立つようになっててイケてる。だからごんぞうスキンヘッドバッドをごんぞうインターフォンにかましてごんぞうオープンザドアーしようとしたときまでは予定どおりだった。だけどごんぞうヘッドバッドはつるつる仕様のおかげで少しだけ狙い誤ってごんぞう非常事態ボタンを押しちゃったみたい。突然部屋中にものすごいアラームが鳴り響いたってわけ。やあだあもう、パパったら大げさー!このままだと警備員の人がきちゃうしアマゾンの人帰っちゃうし寸胴鍋のパスタはどんどん柔らかくなっちゃう。

 

 

あっやばい!ごんぞうピンチ!

 

 

ごんぞうアドレナリン!

 

 

ねえ、でもごんぞう置きなよ。寸胴鍋置きなよってあなたはいうかもしれない。だけどごんぞうちょっと目を離した隙にコンロの上でビニール袋が溶けてるのを見たの。そっか。コンロが熱くなっちゃってたからビニール溶けちゃったんだね。もうここはこんなにトロトロだよってやだやだ!真昼間からハレンチ的なサムシングはダメだよごんぞう!ごんぞうけしからんごんぞう!

 

ってわあお!そんなこと言ってる間にビニール袋から変な臭いがしてきたよ?これが噂の環境ホルモンってやつかしら?47歳のおっさんにこのタイミングで性ホルモンが投与されても誰も幸せにはならないんだから!もう!もっかい声変わりしても知らないんだから!ごんぞう声変わり!

 

でもこのときごんぞうは本当の恐怖に気づいてなかった。

 

 

ビニール袋にはさっき使ったティッシュを入れてて、うちのマンション略してうちマン、煙センサーが反応するんだよね。もくもくと燃え上がった煙はきちんと天井に取り付けてあるセンサーを穏やかに刺激して電気信号を伝えるよ。

 

 

鳴り響く警報。

 

火事です。火事です。

 

いいえ、火事じゃないわ。ちょっとしたダイオキシンなのよぉ!

 

ごんぞうの叫びも虚しく火事警報はちょっとずつ力強く、確信を強めてうるさくなっていく。

 

ねえ、ごんぞうはさ、ちょっとプラスチックのざるを洗わなかっただけなの。

 

ねえ、ごんぞう悪くなくない?

 

ごんぞうはちょっとだけ自分の人生を思い返すの。ごんぞうはいいやつだった。ごんぞうはいいやつだったよ!

 

でも、今マンション中に火災警報を鳴らして警備会社に非常事態宣言をしてアマゾンの人が玄関で待ってて手には熱湯をたたえた寸胴鍋を持っててパスタはゆっくり風呂入ってる。

 

 

 

ごんぞうはさっきまで穏やかな人生の黄昏を生きていただけなのに!

 

 

 

…そうか。

 

 

 

そういうこと?

 

 

 

ごんぞうの人生のクライマックスは今日だった!

 

 

 

ごんぞうは今日のために生まれてきた!

 

 

 

 

 

ごんぞうは寸胴鍋を持ったまま台所に駆け寄った!

 

 

ごんぞうは寸胴鍋を持ったままジャンプした!

 

 

そーれわーっしょい!わーっしょい!

 

 

波打つお湯!

 

 

飛び出るお湯!

 

 

溢れるお湯!

 

 

溢れるお湯が!ごんぞうのなぜかきれいな膝に!足の上に!おててに!そして焦げ臭いビニール袋の上にかかる!

 

 

鎮火だ!

 

 

そのまま残ったお湯を直接流しにこぼしにかかる!

 

 

だめだ!このままじゃあパスタまで飛び出ちまう!

 

 

ざるが無いなら…

 

 

この5本のフィンガーを持つ!

 

 

マイハンドがスペシャルだ!

 

 

熱湯をこぼしながら5本のフィンガーを持つハンドがパスタをフィルタリングする!一本たりとてパスタを流しには捨てさせない!

 

 

ウォォオオオォお!

 

 

 

 

熱い!

 

熱いが!

 

 

俺は今!生きている!

 

 

ごんぞうは今!生きている!

 

 

このタイミングで冷水を全開にするごんぞう!最初からそうして!

 

 

真っ赤に茹で上がったのは指だけじゃあなかった!

 

 

寸胴鍋を冷水に浸したその足でごんぞうは非常事態ボタンを長押しする!

 

 

火事は!!収まったんです!!

 

 

いけない!まだあった!

 

 

ごんぞうは裸足で飛び出した!

 

 

ごんぞうは走った!エレベーターは乗らなかった!

 

 

ごんぞうは階段でアマゾンの人を追いかけた!!

 

 

その破廉恥なボックスを、

 

 

 

そのサムシングハレンチなボックスを、

 

 

 

この手で抱きしめるために…!!

 

 

 

ごんぞうは、「今年の夏はアツいな」と感じながら深呼吸をした。

 

 

今週のお題「私がアツくなる瞬間」

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